本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トルストイ「トルストイの言葉」

  われわれが自分の個性として知っているもの、およびわれわれがこの宇宙全体において見たり、聞いたり、触れたりすることのできるすべてのもののほかに、さらに目に見えない、肉体を具備しない、初めもなければ終わりもない何ものかが存在し、この何ものかがすべてのものに生命を与えている。そしてこの何ものかがなかったら、他のいかなるものも存在しないだろうと思われる。この本源をわれわれは神と名づける。

 

  もしも私が浮わついた生活を送っているのなら、私は神なしでもすますことができる。しかし、この世に生まれ落ちたとき自分は果たしてどこからやってきたのか、そして死んだらどこへ消えて行くのか、などということを考えるとき、私は、私を送り出し、そしてまた迎え入れてくれるもののあることを、どうしても認識せずにはいられない。私は、この自分が、なにか不可解なものからこの世に送り出され、そして再びその不可解なもののところへ帰って行くものであることを、どうしても認識しないわけにはいかない。

  私を送り出し、そしてまた迎え入れてくれるこの不可解なものを、私は神と呼ぶのである。          

                                                                                                 (人生の道)

小沼文彦 訳編