本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

モーム「サミング・アップ」

作家は、他の人もそうだろうが、試行錯誤によって学ぶ。初期の作品は習作であり、作家は様々な主題や様々な手法を試し、同時に自分の性格を涵養するのである。その過程で作家は自己発見をする。発見した自分こそ作品において展開すべきものであり、やがてこの発見を最大限立派に見せる術を学ぶ。それから自分の持てる才能の全てを動員して、可能な限り最上の作品を生み出すのである。書くというのは健康的な職業なので、最高傑作を出した後も多分長生きするであろう。そのときまでには書くことがすっかり身についているので、多分あまり意味のない作品を書き続けるであろう。こういう作品を読者は当然無視してよい。読者の立場からすれば、作家が生涯にわたって生み出すもののうちで、必要欠くべからざるものはごく僅かである。

 

行方昭夫 訳