本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

モーム「サミング・アップ」

  その一方、二度読んだ本はほとんどない。一度読んだだけでは全てを味わえない書物がたくさんあるのは知っているが、一度読んだときに吸収できるものは全て吸収したのであり、それこそが、たとえ細部は忘れても永遠の財産として自分に残るのだ。世の中には同じ本を繰り返し読む人もいる。こういう連中は目で読むに過ぎないのであって、感性は用いているはずがない。機械的な読み方で、チベット人が祈り車を回しているようなものだ。むろん、無害な作業であるが、知的な作業だと思うのは誤解というものである。

 

行方昭夫 訳

モーム著「人間の絆」の中に、同じ本を繰り返し読む友人に対して、それはひどく手の込んだ怠慢だ、と批判する人物が登場する。