本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

フェルナンド・ペソア「不安の書」

  もしもいつかしっかりと安定した生活を得て自由にものを書き発表できるようになれば、ろくに書けず発表もしない、この不安定な生活が間違いなく懐かしくなると自分でも承知している。懐かしくなるのは、その月並な生活が過去のもので、もう二度と経験しないという理由だけでなく、それぞれの種類の生活には固有の良さと特有の悦びがあり、よりよいものへ移るとしても、他の生活に移ると、その特有の悦びは冴えないものになり、その固有の良さは劣ったものになり、消えてなくなり、寂しく感じるからでもある。

 

高橋都彦 訳