本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

フェルナンド・ペソア「不安の書」

  倦怠はそう、世界にうんざりしていること、生きていることの不快感、生きたことの疲労だ。倦怠は確かに物事の冗漫な虚しさに対する肉体的感覚だ。しかし、倦怠はこれ以上で、存在するものであれ存在しないものであれ他の世界にうんざりしていることであり、別人としてであれ別な形式によってであれ別の世界においてであれ生きなければならないという不快感であり、昨日や今日だけでなく明日も、もしあるとすれば永遠に、さらに、永遠というのがそうであれば無の疲労なのだ。倦怠を感じているときの心に痛みを与えるのは、物事や存在の虚しさだけでもない。物事や存在ではない何か別な物に対する虚しさであり、虚しさを感じ、自分を虚しく感じ、それ自身に嫌気を感じ、自己を拒否する心そのものに対する虚しさでもある。

 

高橋都彦 訳