本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

フェルナンド・ペソア「不安の書」

  芸術は、われわれの感じることを他人に感じさせ、彼らを彼ら自身から解放し、とりわけ解放のためにわれわれの個性を提供することにある。わたしの感じることは、それを感じるときの真の実体のうちにあるかぎり絶対的に伝達不能であり、それを深く感じれば感じるほど、それだけいっそう伝達不能になる。したがって、わたしの感じることを他人に伝えられるようにするには、わたしの感情を他人の言葉に翻訳しなければならない。つまり他人が読んで、わたしの感じたとおりに感じるように、わたしの感じるものとして、それを述べなければならない。そして、この他人が芸術上の仮定により、この人でもあの人でもなく、あらゆる人、つまり誰にでも共通する人なので、結局わたしのしなければならないのは、感じたものの真の性質を歪めるとしても、わたしの感情を典型的な人間的感情に変えることだ。

 

高橋都彦 訳