本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

フェルナンド・ペソア「不安の書」

  わたしは生活に探し求めてきたものすべてを、探し求めてきたからこそ放棄した。わたしは、探しているうちに夢を見て、それがもう何だったのか忘れてしまったものをぼんやりと探している人も同然だ。掻きまぜ、位置を変え、置きかえては探す目に見える両手、それぞれが正確に五本の指をそなえた白くて長い、存在する両手の現実の身振りは、探してみたが存在しない物よりもいっそう現実的になる。

  わたしがこれまでに得たものはすべて、この高く、多様に一様な空と同様であり、遠くの光に染まった無から出来た襤褸であり、死がまったく本物の悲しい微笑みで遠くから黄金色に染める偽りの生の断片なのだ。わたしの体験したことはすべて、そう、わたしが探し方を知らなかったということであり、さながら黄昏の沼地の封建領主や、墓が空っぽの町の寂しい皇子のようだった。

 

高橋都彦 訳