本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

フェルナンド・ペソア「不安の書」

  何事も深刻に受け止めず、自分の感覚以外の現実は確かなものだと考えず、われわれは自分の感覚のなかに逃げ込み、大きな未知の国々であるかのように、それを探検する。そして、もしもただ単に美学的観想だけでなく、その方法や結果を表現しようと精出して取り組んだとしても、われわれの書く散文や韻文は、他人に理解してもらおうとか他人を動かそうとかという意図はなく、自分が読書を娯しんでいるのを他人にもはっきり分からせようとして大声を上げて読書するようなものに過ぎないのだ。

  あらゆる作品に欠点はつきもので、われわれの美学的観想のなかでもっとも心もとないものは、自分の書いているものに関してであろう、ということも十分に承知している。しかしすべては不完全であり、さらにいっそう美しくなりえないほど美しい落日はなく、さらにいっそう穏やかな眠りを誘わないような軽い微風もない。したがって、山も彫像も一様に観想し、書物と同様に日々を娯しみ、とりわけ心のなかの実体に変えるために、すべてを夢見て、記述も分析する。これは一度完了すると、外界のものになり、さながら夕暮れとともに訪れきたったかのように、われわれはそれを娯しむことができるのだ。

 

高橋都彦 訳