本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

マルサス「人口論」第15章

  すでに明らかなように、人口の原理により、十分な供給をうける人数よりも供給を必要としている人数のほうがかならず多い。金持ちのお余りで養える人数が三人だとしても、それを欲しがる人数は四人だったりするのだ。この四人から三人を選ぶと、金持ちは選んだ三人にいわば大きな恩を授けたことになる。選ばれた三人もこの金持ちにに大きな義理を感じ、自分たちは金持ちに養ってもらっていると思うにちがいない。金持ちは自分の権力を感じ、貧乏人は自分の従属を感じるだろう。この二つの考え方がいずれも人間の心に悪い影響をおよぼすことはよく知られている。過重な労働がよくないことについては、私もゴドウィン氏とまったく同意見だが、しかし、それでも私が思うに、従属に比べればまだしも害は少なく、人の心を堕落させるおそれも少ない。また、われわれが学んだすべての歴史がしっかりと示してくれるように、不動の権力をゆだねられた人間の心は荒廃しやすいのである。