本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

マルサス「人口論」第15章

  すでに明らかなように、ゴドウィン氏のシステムにしたがって形成される社会は、避けがたい人間の本性によって悪化し、資産家階級と労働者階級に分かれざるをえない。利己心ではなく博愛が社会を動かす原理になれば、その美しい名前から期待されるような幸せな結果は生じずに、いまは一部の人だけが感じている欠乏の重圧を社会全体が感じるようになる。人間の気高い才能が開花し、微妙で繊細な感受性がさらに向上するのは、じつは確固たる所有の制度のおかげであり、一見いかにも偏狭な利己心という原理のおかげなのである。じっさい、文明国が未開状態と区別されるのも、すべて所有の制度と利己心のおかげなのである。文明人は、現在の高みへ登ってくるときに用いたハシゴを、もはや不要として投げ捨ててよい段階に達しているといえるだろうか、あるいはやがて達するといえるだろうか。人間の性質は、けっしてそういえるほどには変化していない。

  いずれの社会も、未開の段階をこえて成長すると、かならず資産家階級と労働者階級が存在するようになる。そして、労働者階級の唯一の財産は労働であるから、この労働という財産の価値を減ずるようなことはすべて、この社会階級の所有物を減らすことにつながるのは明らかだ。貧乏人が自立して、自分で自分の身を支える唯一の方法は、自分の肉体の力を発揮することである。肉体の力だけが、生活必需品をえるために彼がさしだせる唯一の商品である。もしわれわれが、この商品の市場を縮小し、労働の需要を減らし、貧乏人がもっている唯一の財産の価値を低下させたら、それは彼にとって少しもありがたくないだろう。