本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

マルサス「人口論」第7章

  飢饉は、どうやら自然が用いるもっとも恐ろしい最後の手段である。人口が増加する力は、土地が人間のために食糧を産み出す力よりも、はるかに大きい。したがって、人類は何らかの形で早死にすることになっている。まず、人間の悪徳が、人口減少に挑む有能な先鋒である。それは破壊の大軍の先頭にたち、しばしば単独でも大仕事をなしとげる。しかし。人間の悪徳がこの殲滅戦で成果をあげない場合には、流行病、伝染病、悪疫、コレラやペストがつぎつぎと押し寄せ、数千、数万の人命を掃討する。それでも成果が不完全な場合には、とても刃向かえない大飢饉が後陣からゆったりと現れる。そして、強力な一撃で、人口を世界の食糧と同じレベルに押し下げる。

  人類の歴史をじっくりと探究するなら、以上のことから、人類がかつて存在し、あるいはいま存在しているあらゆる国、あらゆる時代において、つぎの命題が成り立つことを認めないわけにはいくまい。

  すなわち、人口の増加は食糧によって必然的に制限される。

  食糧が増加すれば、人口は必ず増加する。

  そして、人口増加の大きな力を抑制し、じっさいの人口を食糧と同じレベルに保たせるのは、貧困と悪徳である。

 

斉藤悦則 訳