本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

マルサス「人口論」第7章

  人口を増やすべしという声は、そこらじゅうでよく聞かれる。一方、私は人類の増加傾向はきわめて大きいと述べてきた。もし、それが正しいとしたら、人口増加がしきりに求められているときに人口増加が起きないのは、不思議に見えるかもしれない。この現実の真の理由は、人口増大の要求が、その人口を養うのに必要な資源を準備せずになされていることにある。まず、耕作を促進して農業労働の需要を高めよ。それによって国の食糧生産を増やせ。そして、労働者の生活を改善せよ。そうすれば、人口増加がそれに比例して起こることには何の心配もいらない。これ以外の方法によって目的を達成しようとするのは、有害であり、残酷であり、暴虐である。したがって、いちおう自由がある国では成功しない。

  人口増加を無理に進めて、賃金を下げ、それによってまた陸海軍費を下げ、そして国外向け製品のコストを下げることは、国の支配階級と金持ちたちの利益であると思われる。ところが、この種の企ては慈善という欺瞞的な外見を装ったりするので、庶民は本気で歓迎しそうになる。まさにそういうときこそ、貧乏人の味方は、この種の企てのすべてを注意深く監視し、力のかぎりそれに抵抗すべきである。

 

斉藤悦則 訳