本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ダニエル・コーエン「経済成長という呪い」序論

人間の欲望はすべての富さえ消費しようとする。ルネ・ジラールはこう記している。「人間は、基本的生活にかかわる欲求を満たすと、あるいはそれ以前の段階であっても、激しい欲望をもつようになる。だが、何が欲しいのかは自分でもわからない。なぜなら、人間は欲しがる存在だからだ。人間は、自分にはないと感じる、自分以外の誰かがもっているはずのものを欲しがる存在なのだ……」。経済成長は目的をもたらす手段ではなく、むしろ生活の苦悩から人間を救い出す役割を期待される宗教のような働きをするのだ。

 

林昌宏 訳