本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ダニエル・コーエン「経済は、人類を幸せにできるのか?」第5章

貿易は、最も脆弱な者を排除し、最も強い者を太らせながら展開する傾向がある。こうして貿易は、最も非効率的な企業を倒産させつつ、全体の生産性を向上させるというわけだ……。しかし残念なのは、これらの新たな理論の枠組みにおいても、失業者全員を救済するのは無理だということだ。優良企業が敗者全員を吸収するというリカードの想定は非現実的なのだ。グローバリゼーションは、やはり社会に傷跡を残す……。
今後、国際貿易は、リカードの比較優位論の新たな解釈に従って機能する。すなわち、それは脆弱な者は消え去り、適応力のある者が繁栄するという、ネオダーウィニズムと呼ばれる論理だ。だが、市場機能だけでは、脆弱な者の社会復帰は果たされない。だからこそ、勝者が敗者に手を差し伸べるための補助的なメカニズムを整えることが社会の課題になったのだ。もしそれができないのなら、人々はグローバリゼーションを即座に拒否するだろう。

林昌宏 訳

*比較優位論→国際貿易において、商品の生産費を他国と比較し、優位の商品を輸出し劣位の商品を輸入すれば、双方が利益を得て国際分業が行うことができる、という説。