本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ナタリー・バビット「時をさまようタック」

「死ぬことは、生まれたとたんに約束された車輪の一部なんだよ。すきなところだけとり出して、のこりをほうり出すわけにはいかないだろう。そういう全体の一部になるということは、神さまのお恵みだといってもいいな。ところが、わしの一家は、そのお恵みをもらえなかった。生きるってことはたいへんな仕事さ。だが、わしらのように死をもたないで、ただ生きるだけというのは価値のないことだ。まったく意味のないことだ。車輪によじのぼる方法があるなら、わしはすぐにそうするよ。死ぬことなしに生きることができるものか。わしらは生きているといえないよ。車輪のわきにころがっている石ころみたいなものだ。これからもずっと石ころなのさ。」

 

小野和子 訳