本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ミヒャエル・エンデ「遠い旅路の目的地」

  その後の十年というもの、シリルは、定住を知らぬ旅の毎日を続けた。シリルが「遠征」と名付けた生活にもまったく慣れ、それがあたりまえの生き方となった。いつかどこかで、さがすものが現実に見つかるという、若年の頃の甘い期待は、言うまでもなくとうの昔に消え去った。その逆で、今ではもうそれを見つけたいとシリルは思っていなかった。見つかれば、その扱いに困ったことだろう。シリルは自分のおかれた状態を次の数式にあらわしてみた。つまり、目的地への到着を願うことができる、そのことと、旅路の長さは反比例するというものだ。シリルの考えでは、この点にこそ人間の努力全体に共通する皮肉がある。つまり、期待が持つ真の意義とは、それがついに満たされないところにこそあるのだ。満たされた期待は全部、結局は失望に終わる運命なのだから。

 

田村都志夫 訳