本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

リルケ「若き詩人への手紙」

私たちに出あうかも知れぬ、最も奇妙なもの、奇異なもの、解き明かすことのできないものに対して勇気を持つこと。人間がこれまで、こういう意味において臆病であったことが、生に対して数限りない禍をもたらしたのです。「幻影」と呼ばれる体験や、いわゆる「霊界」なるものの一切や、死など、すべて私たちに非常に身近なこれらのものは、日ごとあまりにも私たちの感覚が萎縮してしまっています。神のことはさておきとしてです。しかし解き明かしのできないものを恐怖することが、個々の人間の存在を貧弱なものにしたばかりでなく、それによってまた、人間の人間に対する関係も狭いものにされ、いわば無限の可能性の河床から、何物も生じることのない不毛の岸べへすくい上げられてしまっています。というのは、人間関係が言うにも堪えないほど単調に、旧態依然として、一つの場合から場合へと繰返されるのは、怠惰のせいばかりではありません、それは新しい、見きわめのつかない体験に対して、何でもはじめからかなわないと思い込んでいるその恐れのせいもあるのです。しかし何物に対しても覚悟のある者、何物をも、たとえどんなに不可解なものをも拒まない者だけが、他の人間に対する関係を生き生きとしたものとして生きることができ、自らも独自の存在を残りなく汲み味わうことができるでしょう。

 

高安国世 訳