リルケ「若き女性への手紙」
芸術作品に、人を助けることができようなどと、期待することはむしろ思いあがりというものでしょう。しかし一つの芸術作品が自らの中に持ち、それを外へ用いようとしないで、ただ単にそこに存在することによって、あたかもそれが努力であり、要求であり、求愛——魂を奪い去るような求愛であり、激動であり、招請であるかのような錯覚を起こさせるのは、これこそ芸術というものの良心(その職分ではなく)であります——、そして芸術品と孤独な人間とのあいだのこの欺瞞は、創世このかた、神的なものがそれによって促進されてきた、あの僧侶の用いる欺瞞と等しいものです。
高安国世 訳