バルザック「ゴリオ爺さん」
おそらくある種の連中は、いっしょに暮らしている人びとからはもはやなにものも得ることができないのだ。自分たちの魂の空虚をすっかりさらけ出してしまったあとで、彼らは自分たちが、当然の厳しさでもって批判されていることをひそかに感じている。けれども、彼らは、だれからも言ってもらえないお世辞をなんとかし聞きたくてたまらず、あるいはまた自分たちにはない美点をあたかも具えているかのように見せたくてたまらないのだ。それで、彼らは見知らぬ他人の敬意や愛情を、いつかそれを失うことはわかっているのになんとかしてかすめとろうとする。それからまた生まれつき打算的な人間もいる。こういう手合いは、友人や親類にはなにひとつ親切にしようとしないが、それはそんなことをしても当然の義務と見なされるだけだからである。赤の他人に親切にしてやれば、彼らは自尊心の満足を得ることができるのだ。こうした連中は、自分たちのまわりの愛情の輪が狭ければ狭いほど、かえって冷淡になる。そして輪が遠くにひろがればひろがるほど、いっそう世話ずきになるのだ。
高山鉄男 訳