世間というものが、一度足をつっこむと首までつかってしまう泥沼のようなものに、彼の目には見えていた。「けちくさい罪ばかりが行われているんだ」と、ウージェーヌは思った。「そこへいくとヴォートランはたいしたものだ」ウージェーヌは〈服従〉と〈闘争〉と〈反抗〉のなかに、社会の三つの大きな表現を見た。すなわちそれは、〈家族〉と〈世間〉と〈ヴォートラン〉だったが、彼はどれを選択すべきか心を決しかねていた。〈服従〉は退屈であり、〈反抗〉は不可能、そして〈闘争〉は不安定だった。
高山鉄男 訳
*ヴォートラン→同じ下宿に暮らしていた徒刑囚