サマセット・モーム「月と六ペンス」
「この世は、辛くてきびしいものだよ。ぼくらは、わけも知らされずにこの世に生まれ、また、どことも知れないところに去っていかなければならない。だから、本当に謙譲でなければいけないんだ。無事平穏であることの美を讃えなければならない。運命の神がぼくらに目をとめないよう、ひっそりと暮らしていくべきなんだ。
そして、単純で無知な人々の愛を求める。なぜなら、彼らの無知は、ぼくらの知識に勝っているのだから。黙って、ささやかな片隅にいることで満足し、彼らのごとくにやさしく従順になる。それこそ、人生の知恵なんだ」
大岡玲 訳