サマセット・モーム「月と六ペンス」
私たちは皆、世界の中で孤立している。真鍮の塔に閉じ込められ、他の人々とは記号でしか通じ合えない。そして、その記号は、誰にとっても共通の価値を持つとは言えないのだ。したがって、意味はあいまいで不確かにしかなりえない。
私たちは、哀れにも、心の内にある宝を何とかして他人に伝えようとするのだが、相手はそれを受け取るだけの力がないのだ。そして、仲間を真に知ることなく、仲間に知られることもなく、並んで歩きながら一緒になれもせず、ただ孤独に歩いていかねばならない。
大岡玲 訳