羅針
万物は〈言語〉の単語であり、
それを用いて〈何者〉かが、或いは〈何物〉かが、日夜、
世界史と呼ばれる無限の
たわごとを書き綴っている。その奔流に
カルタゴが、わたしが、きみが、彼が、
了得しがたいわたしの生が運ばれていく。
生というこの不可解な謎、偶然、暗号、
バベルの不和、などなどの一切が。
名辞の背後には、名付けえない何かが潜んでいる。
わたしは今日、その影がこの青く光る
軽い羅針に重くのしかかるのに気付いた。
羅針はひたすら海の涯てを指していたが、
しかしそれは、夢の中の時計を、
眠りながら身じろぎする小鳥を思わせるのだった。
鼓直 訳