本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ボルヘス「ボルヘス詩集」(詩集「創造者」よりエピローグ)

わたしの身にはごく僅かなことしか起こらず、わたしはただ多くのものを読んだ。言い換えれば、ショーペンハウアーの思想、或いはイングランドの言葉の楽音以上に記憶に値することは、わたしの身にはほとんど起こらなかったのだ。一人の人間が世界を描くという仕事をもくろむ。長い歳月をかけて、地方、王国、山岳、内海、船、鳥、魚、部屋、器具、星、馬、人などのイメージで空間を埋める。しかし、死の直前に気付く、その忍耐づよい線の迷路は彼自身の顔をなぞっているのだと。

 

鼓直 訳