本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

シラー「世界詩集」(講談社)より

      孔夫子の箴言

時間の歩みは三重だ。
ためらいがちに未来は近づき、
矢のように早く現在は飛び去り、
永遠に静かに過去は立ちどまっている。

 

時間のとどこおるとき、どれほどあせっても
時間の歩みを早めることはできない。
時間の飛び去るとき、おそれも、思いまどいも
その歩みをひきとめることはできない。
悔いも、呪いも
停止している時間を動かすことはできない。

 

きみが幸福に、そして賢く
人生の旅を終えたいと思うなら、
ためらう時間を熟慮のために用いよ、
きみの行為の道具に使ってはならぬ。
飛び去る時間を友にえらぶな、
とどまる時間を敵にまわすな。

 

空間の大きさは三重だ。
休みなく、たえまなく
長さはのびようとつとめ、
どこまでも遠く、はてしなく広さはそそがれ
底知れず深さは沈みゆく。

 

それらはきみにひとつの姿を示している。
きみが完成の姿を見たいと思うなら、
休みなくきみも前進すべきだ、
疲れて立ちどまることをけっしてするな。
世界を形成させたいなら、
広さのなかへおのれを展開することだ。
本質の啓示を願うなら
深さのなかへ降りてゆくことだ。
粘りづよい前進のみが目標にみちびき、
おのれを充実させることのみが澄明にみちびき、
そして底の底にやどっているのが真理なのだ。


登張正美 訳