本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

あまりにも満足しきっている時代、あまりにも達成されている時代は、実は内面的に死んでいるのに気づく。紛れもない真の生の充実とは、満足や達成や到達にあるのではない。すでにセルバンテスが「道中のほうがいつでも宿屋よりよい」と言っている。自己の願望、自己の理想を満足させた時代はもはやそれ以上のものをなんら望まないのであり、願望の泉が涸れてしまっているのである。つまり、あのすばらしい絶頂というのは実は終末なのだ。自己の願望を更新することができないために、ちょうど幸運な雄の蜜蜂が新婚の空の旅のあとで死ぬように、満足が原因で死滅する時代もあるのだ。

 

桑名一博 訳