本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

聖者は、自分がもう少しで愚者になり下がろうとしている危険をたえず感じている。そのため彼は身近に迫っている愚劣さから逃れようと努力するのであり、その努力のうちにこそ英知があるのだ。ところが愚者は自分を疑うことをしない。彼はきわめて分別に富む人間だと考えている。愚鈍な人間が自分自身の愚かさの中に腰をおろして安住するときの、あのうらやむべき平静さはそこから生まれている。

 

桑名一博 訳