本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ルソー「エミール」第3編

各人は他人がもっているもので自分の役にたつものを、そしてそのかわりに他人に提供できるものを知らなければならない。十人の人がいて、それぞれの人が十種類の必要をもつとしよう。それぞれの人は自分に必要なものを手に入れるために、十種類の仕事をしなければならない。しかし、天分と才能のちがいを考えれば、ある人はその仕事のあるものがそれほどうまくできないだろうし、またある人はほかの仕事がうまくできないだろう。それぞれちがったことにむいているのに、みんなが同じ仕事をしては、十分なものが得られないことになる。この十人の人で一つの社会をつくることにしよう。そして各人が自分のために、そしてほかの九人のために、自分にいちばん適した種類の仕事をすることにしよう。各人は他の人々の才能から利益を得て、自分ひとりですべての才能をもっているのと同じことになる。各人は自分の才能をたえずみがくことによって、それを完全なものにすることになる。そこで、十人とも完全に必要なものを手に入れることができ、さらに余分なものを他人にあたえることができるようになる。これがわたしたちの社会制度のすべての表面的な原則だ。

 

今野一雄 訳