本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ルソー「エミール」第4編

うるさいおしゃべりは、才能をうぬぼれろこと、それとも、つまらないことに価値をあたえて、愚かにも、他人も自分と同じようにそれを重要視していると考えること、このどちらかから必然的に生まれてくる。ものごとをよく知っていて、すべてのものにそのほんとうの価値をあたえることができる人は、けっしてよけいなことは言わない。相手がかれにたいして示す関心とかれの話にたいしてもてる興味を評価することも心得ているからだ。一般的にいって、わずかなことしか知らない人は多くのことを語り、多くのことを知ってる人はわずかなことしか語らない。無知な人間は自分が知っていることをなんでも重要なことだと思い、だれにでもそれを話す、これはわかりきったことだ。ところが教養ある人は容易にかれの持ち物を公開しない。かれには語るべきことがありすぎるし、自分に言えることのほかにもまだ多くのことが言えることがわかっている。だからかれは口をつぐんでいる。

 

今野一雄 訳