本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ルソー「エミール」第5編

我々の生の悩みは、我々の必要からよりも、むしろ我々の感情から生ずるのだ。我々の欲望は広大である。だが我々の力はほとんど無に等しい。人間はその願望によって 無数のものに結びついている。それなのに、自分自身の力によっては何ものにも、自分の生命にさえ結びついていないのだ。だから、執着がふえればふえる程、苦痛もまたふえるのだ。この世にあって、ありとあらゆるものは過ぎ去って行く。我々の愛しているものは全て、早晩我々のもとから逃げていくであろう。それなのに、我々はあたかもそれが永遠に続くものででもあるかのようにそれに執着している。

 

今野一雄 訳