本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」第3部第13章

  食料生産は、定住生活を可能にし、さまざまなものを貯め込むことを可能にしただけではない。食料生産は、ほかにも人類の科学技術史で決定的な役割を果たしている。食料生産は、人類史上初めて、農民に生活を支えられた、非生産民の専門職を擁する経済システムにもとづく社会の登場を可能としている。そして、本書の第2部ですでに考察したように、食料生産がいつはじまったかは、大陸ごとに異なっている。さらに、この章でこう考察したように、社会は、そこで独自に発明された技術だけでなく、他の社会から伝播した技術を使用し維持するものである。したがって、技術は、その伝播をさまたげるような地理的障壁や生態系の障壁が大陸の内外に少なかった大陸で早く発達した。また、さまざまな理由によって、社会の革新性は個々の社会によって異なるため、大陸に存在する社会の数が多ければ多いほど、技術が誕生したり取得されたりする確率も高くなる。技術は、すべての条件が等しければ、人口が多く、発明する可能性のある人びとの数が多い地域、競合する社会の数が多く、食料の生産性の高い広大な地域で、もっとも早く発達する。

 

  人類の科学技術史は、こうした大陸ごとの面積や、人口や、伝播の容易さや、食料生産の開始タイミングのちがいが、技術自体の自己触媒作用によって時間の経過とともに増幅された結果である。そして、この自己触媒作用によって、スタート時点におけるユーラシア大陸の「一歩のリード」が、1492年のとてつもないリードにつながっている——ユーラシアの人びとがこういうリードを手にできたのは、彼らが他の大陸の人びとよりも知的に恵まれていたからではなく、地理的に恵まれていたからである。

 

倉骨彰 訳