シモーヌ・ヴェイユ 「重力と恩寵」「社会の烙印を......」
抑圧も一定の段階をこえると、権力者はその奴隷たちから必然的に崇拝されるにいたる。絶対的な強制のもとで他者の玩具になりはてたと考えるのは、人間にとっては堪えがたい。だから、強制をまぬかれる手段がすべて奪われている以上、強制的にさせられていることを自発的にやっているのだと、みずからを説得する。ようするに服従を献身にすりかえるのだ。(ときには課される以上に骨折りをすることで、苦しみはやわらぐ。ちょうど子どもが、罰として課されるならへこたれるような身体的な苦痛も、遊びのためなら笑ってこらえるのとおなじ現象による。)かかる迂回路をへて隷属は魂の品位を貶める。じっさい、この献身は自身にたいする虚言にもとづく。どんな理由をあげても吟味に堪えないからだ。
冨原真弓 訳