トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第8編
もし善が原因をもつものならば、それはすでに善ではない。もしそれが結果を—酬いをもつものならば、それもやはり善ではない。従って善は因果の鎖の外にあることになる。
そしてそのことは、おれも知っているし、われわれみんなが知っていることなのだ。
ところがおれは奇蹟を探しもとめ、なるほどと納得するような奇蹟にあわないのを残念がっている。が、これこそまさに奇蹟ではないか、唯一の可能な、常に存在する、四方からおれを取り囲んでいる奇蹟ではないか、しかもおれはそれに気づかなかったのだ!
これより大きないかなる奇蹟がありうるというのか?
中村融 訳