本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

  心理的に見れば、印刷本は視覚機能の拡張したものであるから、遠近法と固定した視点を強化することになった。視点と消失点とを強調すると、そこに遠近法の幻覚が出来上がる。これに結びついて、空間が視覚的、画一的、連続的なものであるという、もう一つの幻覚が生ずる。活字が線状をなして正確に画一的に配列された姿は、ルネッサンス期に経験された偉大な文化の形態および革新と切り離せないものである。印刷の最初の一世紀に、視覚と個人の視点とがはじめて強調されたのは、活字印刷という形をとった人間の拡張によって自己表現の手段が可能となったからであった。
  社会的に見ると、活字印刷という形をとった人間の拡張は、国家主義、産業主義、マス市場、識字と教育の普及というものをもたらした。なぜなら、印刷は正確に反復可能なイメージを提供し、それが社会的エネルギーを拡張させる、まったく新しい形態を刺激したからであった。印刷はルネッサンス期に大きな心理的および社会的エネルギーを放出さた。・・・一方で、伝統的な集団から個人を解放し、もう一方で、個人と個人を合わせて巨大な権力の集合体にするにはどうするか、そのモデルを提供する、ということである。一方で、作家や芸術家を大胆にさせ、自己表現を育成した。その同じ個人的な進取の精神が、他方で、ほかの人たちに軍事的および商業的に巨大な組織を作り出させたのであった。

 

栗原裕 河本仲聖 訳