本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

  いったん文字文化人が細分化という分析技術を受け入れてしまうと、部族人のように宇宙のパターンにほとんど近づけなくなってしまう。開かれた宇宙よりは、分離された状態、仕切られた空気のほうを好む。自己の身体を宇宙のモデルとして受け入れたり、自己の住宅を——あるいは、それ以外のいかなるコミュニケーションのメディアをも——自己の身体の祭式的拡張であると見たりする傾向がなくなる。いったん人がこの表音アルファベットの視覚的力学を採用してしまうと、宇宙の秩序や祭式が身体器官やその社会的拡張として再起反復するという、部族人がとりつかれている考えを失い始める。しかしながら、宇宙的なものに無関心になることによって、微細な断片や専門の仕事に強烈な集中がなされることになり、それが西洋人の独特の力となっている。専門家というのは、小さな誤りをけっして犯さない反面、巨大な誤謬に向かって動いている人のことである。

 

栗原裕 河本仲聖 訳