本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

  逆説的に聞こえるかもしれないが、オートメーションは一般教養教育を必須のものとする。自動制御機構の電気時代は、突如として、先行する機械時代の機械的、専門分化的労役から人間を解放する。ちょうど機械と自動車が馬を労役から解放して、娯楽の分野に投げ入れたように、オートメーションは人にたいして同じ役割を果たす。われわれは突如として自由という脅威にさらされ、社会において自己雇用をおこない、想像力によってそこに参加していく内的能力に重い負担を課せられることになる。これは、社会の中で芸術家の役割を果たすように人びとに呼びかける運命の声といってよいであろう。このことは、多くの人びとに、彼らがいかに機械時代の断片的反復的しきたりに依存しきっていたかを認識させる効果がある。何千年も前に、食物採集的遊牧民であった人類は、位置の定まった、言い換えれば比較的定着性のある仕事をもつようになった。人間の専門分化が始まったのである。書字の発達と印刷の発達は、専門分化の過程を画する重要な段階であった。この文字文化は、時には「ペンは剣よりも強し」と見えることがありえたとしても、知識の役割を行動の役割から分離した点において、すこぶる専門分化的であった。だが、電気とオートメーションの出現によって、この断片化された過程を特色とした技術は、突如として、人間の対話と融合し、人間の統一を全面的に考慮する必要性と融合した。人びとは、突然、知識の遊牧民的採集者となった。前例がないほど遊牧的であり、前例がないほど豊かな情報をもち、前例がないほど断片的専門分化主義から自由である。だが同時に、前例がないほど全体的な社会過程に関与している。なぜなら、電気によって、われわれは中枢神経組織を全地球的に拡張し、あらゆる人間経験に即時的な相互関係をもたらすことができるからだ。

 

栗原裕 河本仲聖 訳