本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トーマス・セドラチェク 「善と悪の経済学」第1章

自然の気まぐれに翻弄されなくなったことの代償は、社会と文明に依存せざるを得なくなったことである。社会が全体として高度化するほど、その構成員は個人として独力では生き延びられなくなる。社会の分業化が進むほど、生存に関わる程度にまで相互依存の度合いは高まる。

 

動物が必要とするものは、人間に比べたら微々たるものに過ぎない。これに対して人間は、自分の ニーズを満たすことができない。どれほど金持ちになって、21世紀のテクノロジーを手にしても。・・・文明人の場合、持てば持つほど、洗練されゆたかになるほど、必要なものは(けっして満たされないものも含め)増えていくように見える。何か一つを買えば、理論的には必要なものが一つなくなるはずだ。したがって、必要なものの総数は一だけ減るはずである。ところが実際には、「欲しいもの」の総数は、「持っているもの」の総数が増えるにつれて増えていく。ここで、人間の満たされない欲望に気づいていた経済学者のジョージ・スティグラーの言葉を引用したい。「ごくまともな人間が望むことと言えば、欲望を満たすことではなく、もっと欲しがること、もっとよいものを欲しがることだ」。

 

村井章子 訳