本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トーマス・セドラチェク 「善と悪の経済学」第2章

  人間は自分の理論を通じて世界を発見するだけでなく、世界を形成する。単に自然を加工する(大地を耕し、種を蒔き、干拓して土地の効率や肥沃度を高める)のではなく、より深い存在論的な意味で形成するのである。新しい言語形式や新しい分析モデルを発見したとき、または古い形式やモデルを捨てたとき、人間は現実を構築あるいは再構築している。モデルは人間の頭の中にだけ存在するのであって、「客観的な現実」の中には存在しない。この意味で、ニュートンは重力を発見したのではなく、発明したのだと言えよう。ニュートンは完全に抽象的な架空のフレームワークを発明し、それが広く受け入れられ、やがて現実に「なった」。マルクスもやはり発明をした。階級の搾取という概念を、である。彼の着想によって、ほぼ一世紀にわたり世界の大半の国で歴史と現実の認識が変わった。

 

村井章子 訳