本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トーマス・セドラチェク 「善と悪の経済学」第2章

  安息日を守りなさいという命令には、創造には目的があり、終わりがあるというメッセージも込められている。創造するために創造するのではない。すべての生き物は、達成と休息とよろこびを見出すように創造されている。あるものの創造を終えたことは、次の創造へ向かうことを意味するのではなく、そこで休息することを意味する。経済学の言葉で言えば、効用を恒久的に増やし続けることではなく、効用を得たところで休むことに、効用の意義がある。なぜ私たちは、利得を増やし続けることは学んでも、得たものを楽しみ、満足し、愛でることを学ばないのだろうか。
  今日の経済学からは、この視点が抜け落ちている。経済活動には、達成して一休みできるような目標がない。今日では成長のための成長だけが存在し、国や企業が繁栄しても、休む理由にはならない。よりいっそうの高業績をめざすだけである。休息の必要性が認められているとしても、それは達成感に浸り成果を楽しむためではない。酷使された機械の休息、つまり疲れた体を休め元気を回復するための休息である。今日では「休息」という言葉自体がほとんど使われず、ほとんど軽蔑されているのも、ふしぎではない。

 

村井章子 訳