本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トーマス・セドラチェク 「善と悪の経済学」終章

  象牙の塔では専門用語が氾濫し、異なる分野と相互理解や意思疎通ができなくなっている。これは、個々の分野がそれぞれに空高く舞い上がり、孤立し、共通の大地が空っぽになってしまったからではあるまいか。科学の世界で みられる言葉の混乱は、バベルの塔を建てるときに起きたことと似ているように思えてならない。たしかに、大地にへばりついていたら高みから見下ろすことはできない。だが大地こそ、人間の住むところである。よく言われることだが、おおむね正しいほうが、正確にまちがっているよりよい。
  高度化・専門化の傾向にブレーキをかけ、明確に、わかりやすく、シンプルに語るようにしたら、経済学は他の学問分野ともっと理解し合えるようになるだろう。そして、孤立した領域がお互いを必要としていること、互いに学べばもっとゆたかな実りが得られることに気づくにちがいない。

 

  あまりにゆたかになり強くもなった現代人は、もはや外から限界を押し付けられることはない。ほとんどどんなことも克服し、ずっと好きなようにやってきた。これだけ好き勝手にやっていながら、それほど幸福でないとしたら悲しいことである。

 

  人間の歴史をふり返ってみていま言えるのは、人間は、人生の単純なことを受け入れて楽しむ方向へと進化しなければならない、ということのように思われる。

 

村井章子 訳