本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第5章

システムの精密化は、それが機械的に動作するものであれデジタルに動作するものであれ、役割や責任の分割のされ方を決定するのであり、その結果、行使するよう各当事者に求められるスキルの種類も決定される。スキルが組みこまれれば組みこまれるほど、機械はその仕事をコントロールする権利を獲得するのであり、労働者がより深い能力——たとえば解釈や判断に関わる能力——に従事し、その能力を開発する機会は減少していく。オートメーションが最高レベルに達し、仕事を支配するようになると、労働者はスキル面ではもはや降下するしかない。これは強調しておくべきことだが、機械と人間との合同労働による直接の成果は、効率性の尺度から言えば、あるいは質の尺度から言っても、すぐれているかもしれない。だが、にもかかわらず、人間の側の責任と主体性は減じられる。「思考する機械の代償が、思考しない人間だとしたらどうだろうか?」と、技術史研究家のジョージ・ダイソンは2008年に問うた。この問いは、分析と決定の責任がコンピュータへと移行するにつれ、いよいよ重大なものとなっている。

 

篠儀直子 訳