本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第5章

  もしわれわれが不注意であれば、知的労働のオートメーション化は知的努力の性質と焦点を変化させ、最終的に、文化そのものの土台のひとつを侵食してしまうだろう——つまり、世界を理解したいというわれわれの欲望を、である。予測アルゴリズムは、相関関係の発見に神のごとく長けているかもしれないが、特色や現象の裏にある原因にはまったく無関心だ。しかし、因果を見出すこと——事物がなぜ、どうやってそのように動いているのかを、細心に解きほぐしていくこと——こそが、人間の理解の範囲を押し広げ、究極的に、知に対するわれわれの探求に意味をもたらすのである。確立をオートマティックに計算するだけで、専門的・社会的目的には充分だと思うようになったら、根拠を求め、知と驚きへと続く曲がりくねった道を果敢にたどって行こうとする欲望と動機を、われわれは失うか、少なくとも弱めてしまうかもしれない。1ミリセカンドかそこらでコンピュータが「答え」を吐き出してくれるというのに、なぜわざわざ?

 

篠儀直子 訳