本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第6章

  テクノロジーを自己の一部にすることが容易であるがゆえ、われわれは迷走することもある。最も利益になるとは限らないかたちで、道具に力を与えてしまうことがあるのだ。われわれの時代の最大のアイロニーのひとつは、思考や記憶、スキルの発達において、身体的行動と感覚的知覚が重要な役割を果たしていると科学者たちが発見しつつあるまさにそのときに、われわれが世界で行動する時間は減少し、コンピュータ・スクリーンという抽象的媒体を通じて、生活や労働を行うようになっているということだ。われわれはみずからを脱身体化し、みずからの存在を感覚面から狭めている。汎用型コンピュータを作り出したわれわれは、倒錯的にも、道具を使って労働することの身体的喜びを、われわれから奪う道具を発明したのだ。

 

篠儀直子 訳