本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第8章

  近代世界はいつも複雑だった。スキルや知識は専門領域へと断片化され、経済などのシステムが入り乱れ、全体を把握しようとするあらゆる試みは却下される。しかし現在、人類のこれまでの経験すべてをはるかに超えるレベルで、複雑さそのものがわれわれの目から隠されているのだ。巧妙にシンプルさを装うスクリーンの向こうに、ユーザーフレンドリーで摩擦のないインターフェイスも向こうに、それは隠されている。われわれは、政治学者ラングドン・ウィナーの言う「隠された電子的複雑性〔concealed electronic complexity〕」に囲まれている。「かつてありふれた経験の一部」であったもの、人と人のあいだの、人とものとのあいだの直接的相互作用のうちに表れていた「関係性やつながり」は、「抽象概念に包み隠され」てしまった。計り知れないテクノロジーが目に見えないテクノロジーになったとき、われわれは不安を抱くのが賢明だろう。そのとき、テクノロジーの前提や意図は、われわれの欲望や行動に浸透してしまっている。ソフトウェアに助けられているのか、制御されているのか、もはやわからない。ハンドルを握ってはいるものの、誰が運転しているのか確信できなくなっているのだ。

 

篠儀直子 訳