本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

マーク・ブキャナン 「複雑な世界、単純な法則」第10章

  今から二十五年ほど前、進化生物学者のリチャード・ドーキンスは、思想やアイデアが広まっていく道筋には遺伝のような要素があるかもしれないと示唆した。遺伝子が世代から世代へと受け渡されていくのと同じように、アイデア——ドーキンスは、アイデアは「ミーム」と呼ぶ自己複製子の一種だとしている——も受け渡されていくのではないかと提案したのである。「楽曲や思想、標語、衣服の様式、壺の作り方、あるいはアーチの建造法などはいずれもミームの例である。遺伝子が遺伝子プール内で繁殖する際して、精子卵子を担体として体から体へと飛びまわるのと同様に、ミームミームプール内で繁殖する際には、広い意味で模倣と呼びうる過程を媒介として、脳から脳へと渡り歩くのである。科学者がよい考えを聞いたりあるいは読んだりすると、彼は同僚や学生にそれを伝えるだろう。彼は、論文や講演の中でもそれに言及するだろう。その考えが評価を得れば、脳から脳へと広がって自己複製するといえるわけである」

 

阪本芳久 訳