本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

L・ヴァン・デル・ポスト 「影の獄にて」種子と蒔く者

  こんな調子で時がたった。わたしの戦闘の腕はメキメキ上達した。とりわけ、いま話したような急襲が得意だったために、大隊から選抜されて、敵の戦線のずっと後方にまわる急襲計画の立案と指揮をやらされることになった。急襲から戻ってくると、息抜きの休暇をとりたまえよ、と言われる。そのたびにわたしは焦だって、勤務の続行を願いでるばかりであった。困難で危険な作戦行動には必ず志願した。そんな作戦行動に加わるか、下準備をするかという生活が、一年以上も続いた。わたしは戦争以外のことにかかずらう時間をまるで作らなかったし、またそれによって例の影からのがれようとしたのだが、影のほうがはるかに上手だった。影はどこまでもついてくる。目ざめた直後とか戦闘のさなかに、砂丘のかげで銃剣の手いれをする男たちの顔に、突撃のときの無機的な叫び声のなかに、不意打ちをくらってトビカモシカのように旋回する敵の姿のなかに、焼け落ちてくすぶるわが家のそばに子供とともに座り込んだ百姓女を目にしたときに、あるいは深い眠りの門をくぐりぬけ、かぎりなく優しい夢の奧処までも、影が長いスカートをひらつかせる。わたしも抵抗してはみたのだ。しかし、特命をおびて砂漠から突然パレスチナに派遣されていなかったとしたら、どこでこんな状態に終止符が打たれたことか、わたしには判らない。

 

由良君美 富山太桂夫 訳