本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

カヴァフィス 「カヴァフィス全詩集 第二版」


死者の声。理想化された いとしい声。
死者のでも 死者同然に近寄れない
私を去ったひとの声でも。

 

そのひとたちが話しかけてくることがある、夢の中で。
深い思いに沈んでいる時には こちらのこころが
声を聴く、たまさかながら。

 

ああ その音調。刹那 音調が戻ってくる。
わが人生の最初の詩から帰ってくる。
深夜、つかの間に消えゆく遠い音楽。

 

中井久夫 訳