本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

カヴァフィス 「カヴァフィス全詩集 第二版」

ろうそく


これから来る日は われらの前に
燃えさかるろうそく。生き生きと暖かく
金色に輝くろうそくの列。

 

過ぎた日 過去に置き去った日は
燃え尽きたろうそくの陰々滅々の列。
いちばん手前のは まだくすぶっているが
曲がって 溶けて もう冷たい

 

見たくない、過ぎた日のろうそく。恰好も悲しい。
もとの光を思えば いっそう悲しい。
私は前を見る、私の燃えて輝くろうそくを。

 

ふりむきたくない。見たくない。怖い。
黒い列がなんと速く伸び、
なんと早く また一本 死んだろうそくが仲間に加わることか。

 

中井久夫 訳