本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

L・ヴァン・デル・ポスト 「アフリカの黒い瞳」

どうもわれわれは時間の意味を誤用し、完全に誤解していると思うのです。われわれのヨーロッパ的時間概念は浅薄で未熟であり、時間の充全の本性を無視し、それに対して無知であり、われわれのトラブルの若干は直接この無知に起因しているように思われます。ヨーロッパ人の大半にとって時間というものは、ただ〈いつ〉であるにすぎず、時計のカチカチいう音によって計測される直進する流れであって、さながら時間は水車の上を流れる水のように流れるもので、完全にわれわれ人間の自由になる尺度であって、この尺度に従ってわれわれは約束の日を決めたり仕事の予約を守ったりする。あまりにもこの直進運動にからめとられているために、われわれは、ちょっと立ち止まって、時間というものには内容も本性もあるのかもしれず、時間独自の特有の意味を備えていて、そのため時間は、ただの〈いつ〉だけではなく、〈なに〉でもあり、ひょっとすると、ずっと重要なことには、〈いかに〉でもあり、また〈永遠に至る道〉でもあることを考えようともしない。ですから、このように誤解された時間の内的パターンのどこかに組み込まれて、生命自体の巨匠的建築家〔造物主〕の青写真が存在しており、これは存在の究極の意匠を描いた地図であって、それに従ってわれわれの生存が体をなす時間の造作への人間のユニークなかかわりを不断に伝え続けているのだ、とわたしは考えたい。

 

由良君美 佐藤正幸 訳