本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

名本光男 「ぐうたら学入門」第1章

  就学前の子どもたちにとって、一番大事なのは「いま」。いま楽しく遊べるか、いまどれだけ気持ちよく寝られるか、いまどれだけおいしく食べられるか。彼らにとってそれが最大の関心事なのだ。だから、「明日」でさえ「いま」ではないという点で、「来週」「来月」「来年」同様、なんの意味もない言葉なのである。
  そういう子どもたちに対して、大人たちはいつも後々の時間のために、「早く、早く」「急いで」「時間がない」とせかして、彼らの大事な「いま」を台無しにしてしまう。大人にとって、「いま」は時計の秒針が一目盛りでも進めば過ぎてしまう些細な時間なのだ。 

「いま」を精一杯生きていた子どもたちも、学校に通うようになると、「時計」の針がどこにあるかで一喜一憂するようになる。

 

  一つだけの方向、一つだけのスピード、一つだけの時間しかない社会——それが現代なのだ。しかし、私たちはみな、それぞれ姿形が違うように、それぞれが違う自分だけの方向、自分だけのスピード、自分だけの時間を持って生まれてきている。だから、「一つだけ」に適応できない人がいるのは当然というものだろう。